※神余くんの世界史あいらんど…河合塾世界史講師「神余秀樹」先生(吉崎の恩師)の“ちょっとdeepな”世界史をご紹介します。
★台湾の「本省人」を「内省人」と呼ばない理由について
本年の河合塾の演習テスト講座の最終講で、慶応大・法学部・2016年度・Ⅱの問題が扱われていました。その設問2について、大学側の問題文オリジナルを改めて確認すると「外省人と内省人」となっているのですが、これはやはり不適切な表現であり「外省人と本省人」と訂正すべきです。(講義でも触れましたが、テキストにも一部混乱がありましたので、再確認いたします。なお、赤い表紙の過去問の会社[実は旧知]にも一筆入れました。)
国共内戦に敗れ台湾に落ち延びてきた国民党・蔣介石ら(正確には、1945年8月の日本敗退以降に来住した主に国民政府系の人々)が「外省人」と呼ばれるのに対し、従来の台湾在住者を「本省人」と呼びます。1947年の「2・28事件」は、この両者の対立が噴出した惨劇でした。
通常の日本語での「外」に対する「内」という常識感覚から流布したものなのかも知れませんが、下記の戴氏の指摘にある通り、「内省人」という語句は適切とは言えず「本省人」と呼ぶべきであり、このことは台湾に限らず中国全体における「人の移動の歴史」の基本的理解にも関わってくることかと思われます。
※ちなみに本2020年、「初の本省人出身の台湾総統」李登輝氏が亡くなりました。京都帝国大学卒。日本名:岩里政男。鄧小平、李光耀[リー・クワンユー]らと並ぶ客家(はっか)の血を引く“現代アジアの巨人”でした。
2020年12月
世界史講師・神余秀樹
◆参考:戴國煇『台湾――人間・歴史・心性――』(岩波新書、1988)より。
「なお、一部の日本人が外省人の対立語として「内省人」という用語を使うことがあるが、台湾内部、はたまた中国人の間ではこのような呼び方はしない。
本省人の本来的概念は、中国の当該省、例えば、台湾省、四川省、湖南省などに自分もしくは父祖の本貫(本籍地)があって、現にそこに住んでいる、自分と仲間たちを自称する場合に多くが使われる。したがって、当該省に本貫を持たない他省からの来省者は外省人となるわけだ。……。ちなみにこのような用語は、台湾だけでなく、中国大陸においても使われている。」(p.5)
※余談:戴國煇氏も客家のひとりで、このことに本人は強いこだわりと自負があった模様。
〈神余秀樹先生プロフィール〉
1959年、愛媛県に生まれる。広島大学文学部史学科卒。民間企業勤務などを経て受験屋業界の“情報職人”となる。あふれる情報の山に隠れた“底の堅い動き”。“離れて見ればよく見える”。さらに“常識から疑え”。そんな点も世界史のすごみかと思う。
目標は「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」。学校法人河合塾世界史講師。
【著書】
『神余のパノラマ世界史(上・下)』(学研プラス、2010初版・2015改訂版)
『世界史×文化史集中講義12』(旺文社、2009)
『超基礎・神余秀樹の世界史教室』(旺文社、2018)