※神余くんの世界史あいらんど…河合塾世界史講師「神余秀樹」先生(吉崎の恩師)の“ちょっとdeepな”世界史をご紹介します。
★春のお仕事(おサボり)日記――――近況です。
近所のBarが閉店したのは昨年の秋頃だったか。重厚なレンガ造りの店で熟練のマスターが水割りを入れてくれる名店だった。コロナ禍に幕を閉じた。
生活が激変した方々には申し訳ないが、“緊急事態ナントカ”も、実は僕にはあまり関係なかった。すでに数年前から自主的に「在宅勤務」的デスクワークに徐々に軸心を移していたから。
ヨビコー業界もやはり変容。かつてのように大教室満杯でマイク使ってというビジネスモデルがもはや成立しなくなるのも十数年前から想定されたこと。コロナが最後のトドメとなったか。
むしろ発想の大転換でのV字回復もありか?モスバ的な。(※1)
時の流れに抗うも虚しい。昔の沢田研二の歌ではないが、時の流れに身を任せ、実は僕もずっと続けてきたことがある。(今後の本ページにも反映するかと思います。)
予備校の教壇に立つお仕事は、数の上では近年意識的に減らしてます。(その分、教室に入る時には昔以上に緊張感があるのですが……。)
あ、全然「お仕事日記」になってない? ごめんなさい。新時代のテストに向かうギョーカイ事情で、言えない部分もあるのですよ。
代わりに、最近挑戦している本から、いくつか並べてみます。
△М・フリードマン、A・シュウォーツ『大収縮1929―1933』(日経BPクラシックス)
大恐慌は、資本主義の必然的破局ではなく、政策の誤りであるという視点は重要でしょう。いろんな意味で。
△三谷太一郎『ウォール・ストリートと極東』(東大出版会)
著者は日本史分野の碩学・大家。“金解禁”の蔵相・井上準之助を描いた城山三郎『男子の本懐』(※2)の世界を、さらに世界史レベルに広げてくれる大著です。同著者の『日本の近代とはなんであったか――問題史的考察』(岩波新書)もお薦め本。
△小川環樹・木田章義注解『千字文』(岩波文庫)。たまに眺めます。漢字という恐るべき文字体系の厚みを感じさせる書です。(コレ作った南朝・梁の文人さん、一晩で書いたってホントかなあといつも思う。)
△『週刊エコノミスト、特集:半導体――空前の特需』(2021年3月23日号)コメント不要? 世界も今や激変のようで……。
季節は桜満開! 皆様もよい新時代を! また。
――朝のTVでは、フジ『とくダネ』の小倉智昭さんもキャスター引退。隠れファンでした。
(※1)ずっと前から、「河合塾上海校、いつできるんですか?」「シンガポール現役館、できたら僕行きますよ。」と、塾の上の人には言ってきた。アジア市場。冗談ではなく本気ですよ。
(※2)城山三郎さんの主要作はかつてほぼすべて熟読しました。東京裁判でA級戦犯とされた文官・広田弘毅を描く『落日燃ゆ』は代表的定番。戦後日本の計画経済プラン(「日本社会主義化計画か!」との反発も)を進める通産省をめぐる『官僚たちの夏』は、モデルは佐橋さんという実在の人。
また、“財界の鞍馬天狗”と呼ばれた日本興業銀行の中山素平を描く『運を天に任すなんて』には、のちに河合塾理事長となる河合斌人氏が重要人物として実名で登場します。(実に“風格”のある人でした。理事長面談は少し緊張モノでした。)
なかでも一番ハマった作は、やはり『雄気堂々』。昨今話題の渋沢栄一の生涯ですが、アジアで唯一、欧米の植民地化を免れた日本資本主義の創成物語の主役。やはり世界史上のキーパーソンでしょう。
ちなみに、渋沢さんの女好きも世界史上有数(!?)のものがあって、のちの経済界や銀座界隈などでは「あの人、実は栄一さんのお孫さんなのよ…」的なのヒソヒソ話が、しかもあちこちにあるそうで…。 今風のイケメン俳優さんが演じる今年のNHK大河では、そのあたりをどう描くのか? 密かに注目してます。
おあとがよろしいようで。
――――2021年3月26日、記
〈神余秀樹先生プロフィール〉
1959年、愛媛県に生まれる。広島大学文学部史学科卒。民間企業勤務などを経て受験屋業界の“情報職人”となる。あふれる情報の山に隠れた“底の堅い動き”。“離れて見ればよく見える”。さらに“常識から疑え”。そんな点も世界史のすごみかと思う。
目標は「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」。学校法人河合塾世界史講師。
【著書】
『神余のパノラマ世界史(上・下)』(学研プラス、2010初版・2015改訂版)
『世界史×文化史集中講義12』(旺文社、2009)
『超基礎・神余秀樹の世界史教室』(旺文社、2018)