397.「★みんなで仲良く沈む国?――その1」

※神余くんの世界史あいらんど…河合塾世界史講師「神余秀樹」先生(吉崎の恩師)の“ちょっとdeepな”世界史をご紹介します。

みんなで仲良く沈む国?――その1

 「緊急事態ナントカ」も昨年からもう何度目だろうか。

これだけ繰り返すと、もはやインフレ現象で、重みはない。たしかSとかいう総理の、話し方はいつも原稿棒読み、無表情。ほぼロボット…。五輪開催に反対する人も多いらしいが、与党側は「反対おし切ってでも開催してしまえば、“涙と感動のメダル”話が続出して、内閣支持率も少しは持ち直して、で秋の選挙へ」という筋書きか。いよいよとなれば、ワクチン遅れの犯人として、担当官庁の官僚をヤリ玉にあげ叩いて、「官邸v.s.霞が関」の図式で選挙という手もありか? それとも、例によって選挙対策の首のすげ替えか?

 そういえば以前、郵便局を悪者にしてボロ勝ちした首相もいたが、せめてあの流儀で、今年の年頭から「五輪は絶対、成功させる!だから頼む。今は我慢してくれ!」と、プロレス流に気迫のこもったメッセージを発していれば、かなり状況も変わったかも…。

先だって、知人の会合で「コロナの見せた日本の弱さ」について聞かれたので、即座に「リーダーシップの不在+政治家・官僚の質の劣化」と答えておきました。

 永田町の事情、僕はよく知りません。特に近年は興味も失せてます。帝政ローマの軍人皇帝約26人を列挙するよりも、なぜ軍人皇帝が続いたのか、の方が重要なのと同じく、突き放して見ると……。

 さて、今日の本題です。

ビジネス誌などではよく登場する「世界企業の時価総額ランキング」。最近、一部の受験生諸君には、敢えて見せました。

1989

NTT、➁日本興業銀行、➂住友銀行、④富士銀行、➄第一勧業銀行、⑥IBМ、⑦三菱銀行、⑧エクソン、⑨東京電力、➉ロイヤル・ダッチ・シェル、……

 上位10社のうち、7社が日本の、特に金融系が中心。バブル花盛りでもあった。

 あれから30年。世界は変わった。

2019

➀アップル、➁マイクロソフト、➂アマゾン・ドット・コム、④アルファベット、➄ロイヤル・ダッチ・シェル、⑥バークシャー、⑦アリババ、⑧テンセント、⑨フェイスブック、➉JPモルガン・チェース、……

 圧倒的に米国のIT系、いわゆるGAFA。⑦と⑧に中国企業。日本は、このずっとあとの43位にトヨタ自動車が登場。「トップが自動車産業」ということ自体が、世界標準から周回遅れということでもある。

しかも、1989年の➀NTT2019年の➀アップルの時価総額は9倍以上!(日経平均株価が、あの当時の水準をなかなか超えられないのも言うまでもない。また、「アメリカの衰退」を唱えて[or願って?]来た人々には、困った事実が続く。)

では、なぜ、こうなったのか?(日本人は仲間に優しい。これ、関係しますか?)

今日も「日本に生まれて本当によかった」との某テレビCM。それはそれで、なるほどとも。でも、コロナでますます視野が内向きになってないですか?(とも世界史屋は思う。)

 

 1946年、英国の経済学者ケインズは、ドイツに勝って戦勝気分に浮かれる自国民を“愚者の楽園”と呼んだそうです。いわば“おバカさんたちのパラダイス”。 その前々年、ブレトン・ウッズ会議で、ポンドに代わる基軸通貨ドルの覇権を築かんとする米国代表D・ホワイトと渡り合い、米国の底力と決意の堅さを見せつけられていたであろうケインズにとって、前世紀からの栄光が未来永劫に続くかの幻想にひたり、没落しているという自覚がない祖国の人々が、そのように見えていたようです。

「沈みゆく島国、海の向こうに台頭する巨大な大陸国家」

僕たちの生活は、これからどのようになっていくのでしょうか。※

――――この続きは、また。(2021712日記)

 

 

※個人金融資産:¥1948兆(昨年末)。国の借金:¥1000兆をはるかに超えて…(細かくは忘れた。とにかくGDPの2倍以上)


〈神余秀樹先生プロフィール〉

 1959年、愛媛県に生まれる。広島大学文学部史学科卒。民間企業勤務などを経て受験屋業界の“情報職人”となる。あふれる情報の山に隠れた“底の堅い動き”。“離れて見ればよく見える”。さらに“常識から疑え”。そんな点も世界史のすごみかと思う。

 目標は「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」。学校法人河合塾世界史講師。

【著書】

『神余のパノラマ世界史(上・下)』(学研プラス、2010初版・2015改訂版)

『世界史×文化史集中講義12』(旺文社、2009)

『超基礎・神余秀樹の世界史教室』(旺文社、2018)