※神余くんの世界史あいらんど…河合塾世界史講師「神余秀樹」先生(吉崎の恩師)の“ちょっとdeepな”世界史をご紹介します。
★ぼつぼつ、マジに世界史します・1
世界史を語る商売をしているうちに見えてくることもあります。
その一つ。すべての世界史はつながっている!ということ。
「世界史=暗記教科」という“常識”を見直す試みの一つでもあります。
▲イタリアが草刈り場
お話は15~16世紀あたりから。
ド派手な戦乱が続きます。イタリア戦争です(広義には1494~1559)。
なぜイタリアなのか?当時は「ルネサンス」の時代。文化も爛熟。文化はカネにもなる。欲しい!フランス王が攻め込む。その宿敵ドイツ皇帝も攻め込む。それまでもイタリア人同士の戦はよくあったが(ヴェネツィア、フィレンツェetc.)、今やアルプス以北に成立した巨大国家の軍隊が乱入してきた。軍の規模もケタ違い。文化財の買取り(or強奪?)。文化人を招聘(or拉致?)。(最晩年のダ・ヴィンチがフランソワ1世のアンボワーズ城で過ごし『モナ・リザ』の細部に手を入れる話は象徴的か。のちナポレオンもイタリアに攻め込んで富を強奪しますね。)
▲戦(いくさ)の質も変わった。
“槍と刀・弓矢の戦い”から“銃と大砲の戦い”へ。(もはやジャンヌ・ダルクさんの頃とはわけが違う。)
まず、火器。火薬も爆発力を高め、砲弾も飛距離を伸ばす(その要請から、幾何・数学・化学も発達)。爆発に堪える堅牢な砲身を鋳造する製鉄業も。※1
戦闘中に「おい、弾が切れたぞ。隣の部隊のモノを回せ。急げ!」。弾丸・砲弾も寸法・形状が同じものを、しかも大量に生産する必要。つまり、武器の規格化と互換性が問題となり、補給の戦いも重要に。つまり、軍需産業が成立。
城郭も巨大化して、敵の砲撃に備える。(仏・ヴォーバンの城郭建築は、のち函館の五稜郭にも影響します。)
軍事の大規模化とともに、やはり大量の兵士、つまり傭兵が必要。これを雇うには…。
▲つまり、結局カネ、カネ、カネ。※2
以上の軍事革命。そこで必要となるケタ違いの戦費を、さて王様たちはどう工面したか?
まず税金? でも農民から取り立てるにも限度がある。反乱も起きる。何より税金というのは実際にお金が集まるまでに時間がかる。※3
通常予算の数倍規模の戦費。いざ戦争、という時に即刻、カネを集めるには借金、つまりローンしかない。国の借金、つまり国債の始まり。
焦点は「資金調達の戦い」となる。
※1 山本義隆『十六世紀文化革命(上・下)』(みすず書房・2007)は、こうした技術史を単に列挙するのではなく、その周辺事情にも納得のいく(!)理解を促す名著。例えば、A・デューラーらの版画技術。従来の手書きの写本では複写を繰り返すうちに正確な画像は失われる。全く同一の図版を、しかも大量に印刷できる版画技術による図版が、医学・解剖学・植物学・機械工学・地理学などの発達を促し、俗語による書物の普及とともに世の権威と序列のあり方をも変容させたetc.
※2 ジョン・ブリュア『財政=軍事国家の衝撃』(大久保桂子訳、名古屋大学出版会、2003)の第4章のタイトルを勝手に拝借してます。
※3 アダム=スミス『国富論』[1776]では、実際に税収が入るまでには10~12ヵ月はかかる。平時の3倍から4倍の財政を賄うには借り入れしかないとの指摘。(山岡洋一訳、日本経済新聞社・2007、下巻p.506)
★さて、今回の全編については、「国家の盛衰は金利に凝縮される」という大著・冨田俊基『国債の歴史』(東洋経済新報社・2007)をベースに、僕の独断と偏見の想定問答を入れちゃってます。同様の視点は、坂本優一郎『投資社会の勃興――財政金融革命の波及とイギリス』(名古屋大学出版会・2015)でも紹介されています。
★ついでに。各国の時代ごとの状況など、近世西欧の全体像を一目で俯瞰する素材としては、以前にも紹介したファミマ・プリントの「河合出版」中、「絶対主義諸国年表」がわりと適当かと思われます。
〈神余秀樹先生プロフィール〉
1959年、愛媛県に生まれる。広島大学文学部史学科卒。民間企業勤務などを経て受験屋業界の“情報職人”となる。あふれる情報の山に隠れた“底の堅い動き”。“離れて見ればよく見える”。さらに“常識から疑え”。そんな点も世界史のすごみかと思う。
目標は「難しいことを易しく、易しいことを深く、深いことを面白く」。学校法人河合塾世界史講師。
【著書】
『神余のパノラマ世界史(上・下)』(学研プラス、2010初版・2015改訂版)
『世界史×文化史集中講義12』(旺文社、2009)
『超基礎・神余秀樹の世界史教室』(旺文社、2018)