※神余くんの世界史あいらんど…河合塾世界史講師「神余秀樹」先生(吉崎の恩師)の“ちょっとdeepな”世界史をご紹介します。
★別の宇宙の、別な「私」?
終わらない冬はない。誰にも春は訪れる。それぞれの春。人生の分岐点の人にも。
では昨日、たまたま新宿で立ち寄って観た映画から。
★『エブリシング・エブリウェア・オールアットワンス』(略称『エブエブ』)
一人の平凡な女が、世界を救い、宇宙を変える(?)お話。
異次元の宇宙が他にいくつも数多く存在し、それぞれの中にも別の自分がいて、ある宇宙での自分は映画スターだったり、別なある宇宙では格闘家だったり、料理人だったり、そして「この宇宙」の彼女はアメリカ西部の町でコインランドリーを経営しながら税務署の役人への申告書に苦心する中国系のフツーの女。
頼りない夫が実は別次元との関わりの始まり。頑固な父親や、そして何よりも言うことを聞かない娘との軋轢も、異次元空間での破天荒なバトルとして展開される。
その中で生じた心の変化が、やがて相手の心をも変え、宇宙を変える力になっていく。
「今、宇宙を救えるのは君だけだ!」
そんな絶大な力を彼女が持つようになったのは、実は家族に向き合う愛情が原点だった、というのが趣旨の映画(らしい)。
うーん。なるほど…。
それにしても、やはり香港映画というべきか、ペースはカンフー映画。その雑多さには呆れながらも、2時間半もつき合わされてしまった。
「僕が映画人なら、このテーマ、30分モノで描けるんちゃうかなぁ?」とも。
「アカデミーなんとか賞!」とかをたくさん取ったらしいが、たとえ「偉い人」が賞賛し、周りの皆が絶賛しても、僕は同調しない。確信犯的に生意気な年寄りになりつつあるのかも。(たぶん今後のスタンスです。)
で、この作品:★★★☆☆
※でも、主演の女優さんも還暦過ぎ、らしい。負けてられんなあ?
――――――――2023年3月31日、記
★神余秀樹プロフィール
1959年、愛媛県に生まれる。1978年、広島大学文学部史学科東洋史専攻に入学。中国農村社会史に関心。1980年3月に訪中。解体寸前の人民公社の実地見学や劉少奇の名誉回復など、“脱・文革”の流れを実感。韓国・朴正熙政権の経済構造に関する研究会の他、露・ナロードニキの“非西欧性”と文学の関係には没入(大学の単位制度は無視)。丸山真男の超国家主義論、竹内好の魯迅論、三浦つとむ「官許マルクス主義」批判や、高野孟『インサイダー』に強く影響を受けた。意図的・計画的な留年2年を経て(当時、学費は安かった)卒業後、電気通信系の民間企業を経て塾業界へ。世界史の“情報職人”となる。
1989~90年、在英日本人高校の講師として英国在住。産業革命遺跡などを巡る一方、崩壊直前の“ベルリンの壁”、東欧・民主化革命の現場を見る。(その後も、パレスチナ和平に揺れるエルサレム[1996]、中国への返還前夜のポルトガル領マカオ[1999]など、歴史の積み重なった現場の数々を歩いた。)
帰国後は河合塾世界史講師として30年余り。地図と年表を組み合わせて俯瞰する立体的マトリックスの手法をめざす。講義のほか模試の作成、難関大対策業務の数々、高校の先生方対象の入試研究会や研修なども歴任。
大学の市民講座は頻繁に聴講。近年は、歴史の底流たるマネーの流れにもこだわる。
目標は「難しいことを易しく、易しいことを面白く、面白いことを深く」。
★著書
『神余のパノラマ世界史(上・下)』(学研プラス、2010初版、2015改訂版)
『タテヨコ世界史 総整理・文化史』(旺文社、2009初版、2022改訂版)
『超基礎固め 神余秀樹の世界史教室』(旺文社、2018)