630.★世界史あいらんど・最終章

※神余くんの世界史あいらんど…河合塾世界史講師「神余秀樹」先生(吉崎の恩師)の“ちょっとdeepな”世界史をご紹介します。

世界史あいらんど・最終章

 この季節、想い出す歌のひとつが柏原芳恵さんの「♪春なのに~、お別れですか」1983年、忘れません)

ぼつぼつ僕も御挨拶を。

もうご存知の方もおられるようですが、受験世界史に関わる商売からは今やほぼ完全に手を引いています。理由はいくつかあります。気持ちは堅いです。

 

◆「サヴィニーの女たち」をご存知ですか?

 昔々、あるところにRomという男をボスとする奴らがおったそうな。貧相で荒っぽい男ばかりの集団だったらしい。「女が欲しい~」「取って来ようぜ!」と。近くのサヴィニーという部落を襲撃して女たちを略奪してきた。で、子を産ませた。やがてサヴィニーの男たちが娘や妹らを取り返しに来た。男たちの抗争。間に立ったのは女たち。実の父や兄たちと「夫」たちの間に立ち、争いを収めようとする姿を、後世画家ダヴィッドらが描く。彼女らの足元に幼い子供の姿を足元に描いて。その子供たちのさらにその子…。

この野蛮な略奪集団が、のちに世界帝国ROMAに発展することなろうと、当時誰が考えたでしょうか。
 「こんな力ずくの暴力が許されていいはずがない」「彼らが繁栄するなんてことは絶対にあってはならない」と叫ぶ人々の涙をよそに、冷徹に、現実の世界史は進んで来た。(「ホルテンシウス法」を覚えることも大事とは思うけど。)

 「国民の9割は正義感を持たない」と、芥川龍之介はシニカルに観察(前出の通り)

 

◆そして、21世紀の今(その4分の1はまもなく終わる)

この国の世界史の教科書の基本は、この半世紀以上もの間、ほぼ以下の通りだった。

 

「西欧列強はアジア・アフリカを支配下に置き、その犠牲の上に経済繁栄を謳歌し、欧米列強の帝国主義の支配抵抗するアジア・アフリカ人民の闘い。さらに、列強たる先進国の国内では労働者階級が搾取され、これに対する労働運動や社会主義運動が生じ、彼らの闘いが世界史を前進させてきた」と。

 もちろん嘘ではない。たしかに事実の一面ではある。しかし、一面でしかないと、僕は今は、思っています(具体例は今後述べます)

 はっきり言います。

民衆」の側がまるで正義の味方で、「君主・貴族・資本家」がまるで悪者であるかような、

「善玉v.s.悪玉」の勧善懲悪的二元論のような“物語”に、僕は“知性”を感じない

 

◆さて本HPは、この3月末をもって本編・終了とさせて頂きます。

この後は「世界史あいらんど・番外編」をいくつか掲載して秋頃には完全終了とする予定です。ここまで、拙稿にお付き合い頂いた皆様、ありがとうございました。

 

〈今後の番外編・アバウトな予定〉

商売・ビジネスは悪事なのか?

 一部の歴史教育者に、未だに(!)残る「民間企業=悪者」論について。

国債金利の歴史

 なぜナポレオンはイギリスにだけは敵わなかったのか?もしくは金利の重要性。

中央銀行制度の形成

「政治経済」の教科書を見ると「日銀の役割」が随分と詳しい。が、それは世界史とともに次第に形成されて来た結果といえる。世界史はおカネでできている。同様に、金本位制(=明治・大正のグローバリズム)と変動相場制の50余年も。

△「外資」の導入とは?――今なら当たり前のことですが…(オスマン帝国の場合etc.

△そして日本の近代

・最近ようやく正当に評価され始めた渋沢栄一高橋是清石橋湛山ら。

△「革命」って、そんなに御立派なことなのですか?

ex)今や世界の半導体産業の先端を走るNVIDIATSMC。両者とも創業者は中国人。特に最近、熊本の工場進出でも話題のTSMCの創業者モリス・チャン(張忠謀、浙江省出身)が、中国を離れ渡米したのは1949年、共産政権の成立を嫌ったからという。かくして先端技術は西側自由世界のものとなった。革命の進展は人材の流出を招く2024年の今や、中国からの人とマネーの流出が止まらない模様。(例えば、いわゆる「フランス革命」でも同様の事態が。)

 

――――2024.3.26

★神余秀樹プロフィール

 1959年、愛媛県に生まれる。1978年、広島大学文学部史学科東洋史専攻に入学。中国農村社会史に関心。1980年3月に訪中。解体寸前の人民公社の実地見学や劉少奇の名誉回復など、“脱・文革”の流れを実感。韓国・朴正熙政権の経済構造に関する研究会の他、露・ナロードニキの“非西欧性”と文学の関係には没入(大学の単位制度は無視)。丸山真男の超国家主義論、竹内好の魯迅論、三浦つとむ「官許マルクス主義」批判や、高野孟『インサイダー』に強く影響を受けた。意図的・計画的な留年2年を経て(当時、学費は安かった)卒業後、電気通信系の民間企業を経て塾業界へ。世界史の“情報職人”となる。

198990年、在英日本人高校の講師として英国在住。産業革命遺跡などを巡る一方、崩壊直前の“ベルリンの壁”、東欧・民主化革命の現場を見る。(その後も、パレスチナ和平に揺れるエルサレム[1996]、中国への返還前夜のポルトガル領マカオ[1999]など、歴史の積み重なった現場の数々を歩いた。)
 帰国後は河合塾世界史講師として30年余り。地図と年表を組み合わせて俯瞰する立体的マトリックスの手法をめざす。講義のほか模試の作成、難関大対策業務の数々、高校の先生方対象の入試研究会や研修なども歴任。

大学の市民講座は頻繁に聴講。近年は、歴史の底流たるマネーの流れにもこだわる。

目標は「難しいことを易しく、易しいことを面白く、面白いことを深く」。

 

★著書

『神余のパノラマ世界史(上・下)』(学研プラス、2010初版、2015改訂版)

『タテヨコ世界史 総整理・文化史』(旺文社、2009初版、2022改訂版)

『超基礎固め 神余秀樹の世界史教室』(旺文社、2018